DAINASHI YESTERDAY

2016.08.23

最貧国シエラレオネで出会った12歳の少年の話

20160823

もう6年か7年前になるけれども、僕は世界最貧国と言われる西アフリカのシエラレオネという国に1か月ほど滞在していた。

なぜ行ったのかと言われれば、特に理由はない。強いて言えば、「世界一貧しい国ってどんなところだろう」という、失礼な好奇心からだ。

シエラレオネでの滞在先は、カナダにいたときに連絡を取っていたシエラレオネ人男性の親戚の家だった。

その家族は父親がすでに亡くなっていて、母親は嫁いでガーナだかセネガルだかにいる一番上の姉と一緒に暮らしているため、この家には23歳になる三女とそれより下の兄弟姉妹で暮らしていた。

そこでいつも僕の世話をしてくれていた12歳のアルフレッドという少年がいた。

家の中は禁煙のため、僕が玄関先でタバコを吸っているとアルフレッドはいつもやってきていろいろなことを教えてくれた。

僕が覚えたシエラレオネの言葉(クリオ)は、ほとんどアルフレッドに教えてもらったものだ。

お返しに僕は日本語を教えて、その輪に他の兄弟や近所の子たちが加わって、うるさくなってきたところで三女のロイスがやってきて叱られて解散というのがお決まりのパターンになっていた。

僕がどこかへ買い物に行くときも、アルフレッドは決まって道案内を買って出てくれたし、明らかに他の兄弟よりも僕の世話を焼いてくれた。彼のおかげで僕のシエラレオネ滞在がいまだにいい思い出になっていると言っていい。

ある日、いつものように土砂降りの雨を見ながら玄関先でタバコを吸っていると、いつの間にか学校から帰ってきていたアルフレッドが顔を出した。

「ズボンのチャック開いてるよ」と教えたら、「これははじめからこうだ」とことのなげに言われた。漢(おとこ)だなと思った。

その後、学校の勉強の話から将来の夢の話になった。彼の夢は、プロサッカー選手としてACミランでプレーし、引退後はシエラレオネの大統領になることだった。

「忙しい人生になるね」と言うと「あぁ」と答えたドヤ顔が今も思い出される。

アルフレッドは今、18か19くらいのはずだ。今頃はACミランの下部組織にでもいるのかもしれない。何をやってるのかなとたまに思い出すけど、何にせよ楽しく生きていてくれたら言うことはない。

正直な話、彼の国で夢をつかむことは、たやすいことではないのかもしれない。彼がどれだけ望んでも、環境や状況がそれを許さないかもしれない。

今僕はベトナムにいるけれど、やはり途上国と言われる国では、生きることで精一杯な人が大勢いる。今日生きるための金を、今日稼ぐ。そうしているうちに、子どもの頃に見た夢を遥か遠くに置いてきてしまうのだ。

そう考えると、自分が日本に生まれたということが、結果を決めかねないほどのアドバンテージであることに気づく。少なくとも、明日生きるための金はある。それどころか、自分と家族がしばらく生きていけるくらいはある。

これだけ恵まれた環境で、やりたいことをやらずに死んでしまうのは、もはや間抜けと言ってもいいのではないだろうか。

今思えば、あのときの会話が僕の人生のスタートラインだったような気がする。

僕は、キラキラした目で夢を語るアルフレッドに向かって「そんなの無理だよ」とは言えなかった。そのとき、そういう自分でいられてよかったと思っている。

シエラレオネを発つ日、アルフレッドはほとんど顔を出さなかった。ロイスに聞いたら寂しくて泣いているそうだ。最後まで可愛い奴だった。

数年後に、もしACミランでシエラレオネ出身のアルフレッドという選手がプレーしていたら、そいつは僕の恩人なのでよかったら応援してやってほしい。

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